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(旧 「防水屋台村」建設中)
RN211Y 村上天皇は板屋に苫を葺いた
ルーファー(屋根関係者)必見の能

「屋根」に係わる能はないか、と、観世流謡曲百番集と続百番集をめくりました。何らかの係わりがある、という程度のものは数曲はありますが、そのものずばりは、なんといってもこの一番。玄象(絃上げんじょう)です。

あっしゅく表紙 P8220177
玄象(絃上)。 曲柄:5番目。季節:8月。準九番習。所:摂津国須磨浦。

太政大臣藤原師長(もろなが)は、雨乞いのため琵琶を弾くと、龍神がそれに感じて雨を降らせた、というほどの琵琶の名手。国内無敵ゆえ入唐して奥義を極めようと決意した。最後の思い出に、須磨の月を眺めに出た。遅くなってしまったので、汐汲みから戻った老夫婦に一夜の宿を頼み、乞われるままに琵琶を弾いた。

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にわかに村雨がきて、師長は手を止める。シテ(老人)は 「や、何とて御琵琶を遊ばし止められて候ぞ」
なぜやめたのですか? とたずねると、師長は村雨のため、という。
老人は姥(ンバ)に苫(とま・茅、ヨシ、わらで編んだむしろ)を持ってくるように言う。「どうして?」と尋ねる姥に老人は、
「苫にて板屋を葺き渡し、静かに聴聞申さん」  苫を被せて、静かに琵琶を聴こうじゃないか、と答える。そして

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老夫婦は一緒に「苫取り出だし、さっと葺き」。図は、ハネ扇で「さっと葺いた」瞬間。

師長は「かほど漏らざる板屋の上を。何しに苫にて葺きてあるぞ」
雨漏りしているわけでもないのに、どうして苫を葺いたのですか?  と聞いた。

老人は
「さん候、只今遊ばされ候 琵琶の御調子は黄鐘(おうしき)。板屋を敲く雨の音は盤鐘(ばんしき)にて候程に。苫にて板屋を葺き隠し。今こそ一調子になりて候へ」
板屋を敲く雨の盤鐘(西洋音階での近似音「ロ」を主音とする旋法) の調子を、苫を葺くことによって、師長が弾く琵琶の黄鐘(西洋音階での近似音「イ」を主音とする旋法) の調子に合わせたのだ。 と答える。 **

これは只者ではないと驚いた師長、老人に演奏を所望する。老夫婦は琵琶と琴を弾く。その見事さに師長は自分の未熟さと思い上がりを恥じて、こっそり逃げ出す。

気付いた姥。老夫婦はそれを引き止め、実は自分たちが村上天皇と、梨壺の女御であり、師長の入唐を止める、ため現れたのだと、明かして消える。ここまで前段。

後シテは村上天皇の霊である。村上天皇は琵琶の名手で、唐伝来の琵琶の三大名器「絃上」「獅子丸」「青山」のうち絃上の主だった。獅子丸は日本に渡る途中で、龍神に奪われてしまったのである。(平家物語)

天皇の霊は海底の竜王に名器「獅子丸」を持ってこさせ、それを師長に与え。八大竜王の伴奏で、師長と村上天皇が秘曲を奏じ、舞をまう。やがて、村上天皇の霊は八大龍馬に引かれ飛車(ひぎょうのくるま)に乗って空へ、師長は飛馬(ひば)に乗って帰ってゆく、という雄大な曲である。

大成版観世流謡本「玄象」の曲趣解説の最後に、
「筋でいふと、支那を過重することの非を主張するところに主旨があるやうにも取れるけれども、演戯としては前場の村雨に調子を變へる所と、後場の早舞(*編集部注:師長、村上天皇の演奏、八大竜王オケ伴奏によるダブルコンチェルトの部分)が大事なのもである。
と、ルーファーにとって嬉しい記述がある。
これこそ雨の功徳、屋根の功徳。なんぼう有難き事にてはなきか。(ル-フィングジャーナリスト・佐藤孝一)
…  ・・・ 
**注:能の笛(能管)は通常、黄鐘調ですが、囃子が主となる部分では一調子高い盤鐘調になることがあるそうです。

正倉院御物の五弦の琵琶はこの3名器のいずれでもありません。
宮内庁正倉院事務所は8月27日、「正倉院紀要第35号」に、雅楽研究家の横山円音(みつね)さんの調査結果が掲載されたことを発表しています。

正倉院(奈良市)を代表する宝物の一つで聖武天皇(701〜756)の遺愛品「螺鈿紫檀五絃琵琶(らでんしたんのごげんびわ)」(長さ108・1センチ)が、エックス線写真などから楽器としての構造を備えていることが分かった。というものです。

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防水の歴史を探る*「ルーフネット」は日本の世界の防水に関する記録の初見を求めて日本書紀や聖書などを調べています。「日本の防水歴史研究会